ターゲティングの本質


 「行動ターゲティング」に注目が集まっている。またその議論も、ユーザー側から見ると、そんなに特定の対象者に限定されてくるのはいかがなものかという議論が結構ある。

 私の見解から云うと、行動ターゲティングなどが目指しているのは、単純に配信対象を絞り込むことばかりではない。もちろんバイイングサイドは、広告のROIを最適化したい。その意味で無駄な投下は極力避けたい。ただ「アウェアネス→レリバンシー→購入意向→購入」というプロセスがあるとして、どこに一番作用するコミュニケーションをしたいのかは、商品カテゴリーやブランドによって違うので、購買行動寸前に投下対象を限定したいブランドもあれば、アウェアネス獲得のコミュニケーションと、レリバンシー醸成のコミュニケーション、購入意向から購入への最後のプッシュなど、プロセスごとにコミュニケーション内容を最適化したいというニーズもある。
 つまり行動ターゲティングは、配信対象を絞り込むだけではなく、プロセス別にコミュニケーションを最適化するターゲティングツールである。逆にそうでないと、メディア側からすると、単価は高くなっても常に在庫の一部しか売れないことになってしまう。広告投下の価値は、ターゲティング技術とその精度によっては配信対象別に価格差はつくと思うが、需給や価格形成の主導権がかなりバイイングサイドに移ることを除けば、広告が特定の人間にしか配信されないということはないと思う。


 広告は常に、関心のない人に興味関心を持たせる役割を負っている。ただ現時点で興味のない人へのメッセージと、既に興味をもって購買行動を起こすか起こさないかの状況にある人へのメッセージは違う訳で、それを識別して個々に最適なコミュニケーションができるのであれば、広告のROIは上がるはずだ。

 また世の中の商品やサービスは、何も可処分所得の高い人向けばかりではない。また自己関与が低い商品カテゴリーでは、上記のような購買プロセスを辿るものばかりではない。広告によるブランド認知が購買に直結する場合もまだたくさんある。
 
 だから、行動ターゲティングも万能ではない。従来マスマーケティングとマス広告の図式が単純だったからかもしれないが、次世代は一様に説明がつくほど単純ではない。だからこそマーケターは、自社ブランドのベンチマークをもつ必要があるのだ。