広告業の将来


 広告代理業の価値が低減していくだろうと、先だってのエントリーにも書いた。「広告枠に取り合いになるほど需要があって、そこを抑えているので高く売れるし、マージンも確保できる。」というメディアレップ型ビジネスモデルは、まだまだやっていけるとは思うが、総販売力に比例して枠を押さえる能力が担保されるので、総販売力を維持するオペレーションコストがかかる。当然価格競争に晒される商品も多くなり、高い利益率はそうそう望めない。有力な広告枠だけ扱えるという状況はあり得ないから、広告需要そのものが減退したり、広告枠が限定されなくなるととたんに利益率の悪い商売になる。

メディア扱いをさせてくれるのは、ディスカウントするか、キャンペーンプランニング、クリエイティブなどのトータルサービスを提供するかどちらかで、単にメディア扱いだけをフルマージンでくれる粋狂な広告主は今どきほとんどいない。
 純粋にプランニングやオペレーション部分だけでもしっかりしたフィーを払ってくれるクライアントが多くなればいいが、日本の広告主の多くは、メディア扱いと抱き合わせで、広告会社のプランニングやオペレーションサービスを引き出した方が安く上がると考えているようだ。フィーをもらうには絶対価値としてのスキルが要る。

そして今はマス広告が激減している。おそらく底を打つのは再来年。その後もマスの回復は容易ではない。

 さあ、この状況下で日本の広告業はどう発展(あるいは衰退)するだろうか。まず最初の視点は、現状の業態で、収益性(粗利率)を維持ないし上げることができるか、そして現在の機能を維持したままオペレーションコストを下げることができるかの2点である。

 粗利率でいうと、現状のソリューションサービス提供領域で、圧倒的に競争優位なサービスを確立することは容易ではない。メディアに関しても、全メディアが広告枠を絞って供給量を減らさない限り(OPECみたいに)、価格の維持やセルスルー率は上がらない。
広告会社が第三者のメディアやソリューションを右から左に販売するだけでは、やはり高い利益率は確保できない。従ってまずはオペレーションコストを下げることで、利益構造を再構築するしかない。損益分岐点を下げるしかないのだ。

 広告業は、現業のコストを抑えて利益を出しつつ、周辺事業開発に能力の高い人材を投入して、新たな収益源を獲得するしか生き残る道(正確には成長する道)はない。成長戦略をとる前に、現業だけでも利益の出る体質にすることから始めなければならない。その上で、戦略的な投資を展開できるかになる。まず、数%(の営業利益率)でもいいので営業利益が出ないと資金調達ができない。一定以上の投資余力を担保するには、こうした環境でも利益の出る状態をまずつくることだ。

 その上で、成長戦略を描くためには、総合商社がやってきたモデルが参考になる。商社ももともとあった手数料収入はどんどん薄利になっていった。そこで商社は、取引相手に資本を注入して、利益を取り込む戦略に出た。そして連結で利益を計上する。
 ここがもうひとつの課題。広告会社がグループ経営という立体的な発想ができるかである。単体の利益だけを考えていると、絶対に行き詰る。なぜなら、マーケティング環境の変化でワンストップでのサービス提供が困難になり、グループでの最適化を図るしかないからだ。総合商社は一見単体がでかいが、中身は様々な事業カンパニーの集まりだ。商社はありとあらうる領域を商売の対象として、「本体側のパーヘッドで商売になるかならないか」で事業選択するので、同じ給与体系でも成立する。実際のオペレーションは給与水準の低い子会社がやるからだ。
広告会社の方は、単体でのワンストップサービスが難しい以上、機能や顧客層別に再編成したグループ対応を求められる。(もちろん既にこうしたグループ経営がかなりできている大手もある。)それぞれに専門性をもった営業力が必要だからだ。いくらスタッフに専門家を持ってきても、顧客とインターフェイスするフロントラインに知見がないのでは、仕事にならない。仕事を獲得できないからスタッフも育たない。総合力という規模の論理は通用しにくくなっている。

 またある意味、広告業はいったん平均賃金を下げてでもしっかり働いてくれる社員をどれだけもっているかの勝負になる。その上で余分な人員は極力減らす。給与体系も大幅に見直して、クリエイティブなどは人件費を原価計上して、計上できた分だけ払う。営業も給与体系を選択できるようにして、ミニマムギャランティ+出来高も取り入れる。こんな荒療治が通用するかだが、こうしたことをやり切れる会社は生き残るだろう。なぜなら広告業くらい人員のパフォーマンスの差が大きい業態もないからだ。一部の仕事のできる人が多くの仕事ができない(ないししない)人を養っている構造がひどいのが広告会社だ。仕事と作業の区別がつかない営業(派遣社員の方がちゃんと仕事をしている場合もある)。バックヤードにいて評論家のようなことばかり言っているスタッフ。いずれもこうした正社員の数をどれだけ減らせるか。その代わりしっかり仕事をして成果を上げている人たちにちゃんと報いられるか。そのためにも評価基準の複雑な、レイヤーや職種の多い大会社を機能分社して、全員の営業利益貢献を数値化できるようにした方がいい。

 それから、デジタルも対応できる人員に極力入れ替える。欧米では、会社の看板はそのままにして大量にリストラして、新しい人員に入れ替えている。日本では文化的にそこまでできそうもないが、グループとして再編成を試み、デジタルスキル人材をどれだけ囲い込めるかが重要だ。
 デジタルリテラシーもデジタルスキルも、今ない人には、今更そう簡単に身につく訳ではない。とはいえ、デジタルスキルがないからといって仕事にならないかというと、そんなことは全くない。要はどんな仕事で稼いでもらうかだ。広告会社の資産は、人材と顧客だ。今どき取引口座はそうやすやすと獲得できるものではない。広告主企業も簡単に取引口座を増えそうとは考えていない。持っている顧客と持っている人材の適正配置(マッチング)こそ広告会社の経営判断であって、それ以外にはないと言ってもいい。
 
 従来の広告代理業というビジネスモデルにおいては、同じ皮袋(ビジネスモデル)の中身をアナログからデジタルに入れ替えただけでは基本儲かる商売にはならない。ただデジタル領域には、新たな儲け口がたくさんあって、いわゆる広告周辺領域には広告代理業以外の事業性もある。だからこそ、そこへの挑戦をするべきだ。
本来広告ビジネスをつくった人たちは、実に「ビジネスモデルドライブ」な会社をつくってきたはずで、広告マンがビジネス開発においても潰しの利くところを見せなければならない。広告業の将来は、若い広告マンのこういう意識にかかっている。能力は高いのだから・・・。