2016年広告マーケティング業界7つの予測  1~3


その1)デジタル広告でパブリッシャーの連携が始まる年

 英国の「パンゲア」など、巨大プラットフォーマーに利益を持っていかれているパブリッシャーが連帯して、自らの利益基盤を作ろうとする動きは日本でも始まるだろう。
 良質な一次コンテンツを創出しているパブリッシャーが、デジタルシフトしても持続的な経営基盤を維持出来るようになるのは、受益者であるユーザーにとっても大切なことである。
広告というマネタイズでそれが成立するためには、アメリカの1/4とも言われる広告単価を本当の価値に見合ったところまで引き上げる必要がある。そのためにも掲載面の良質コンテンツが誘引する良質なオーディエンスとその接触態度をもって、広告の「ブランディング効果」をもっと主張したい。
それには、ブランディング効果を生むフォーマットや効果指標を新たにつくる必要がある。こうしたことはパブリッシャーが単独で出来ることではない。連携・連帯が必要となるだろう。
また、今後期待されるネイティブ広告の動画フォーマットなどでのクリエイティブも、ブランドの文脈というより、パブリッシャー側のコンテンツ文脈(=オーディエンスの文脈)でつくられるべきであり、こうしたことはエージェンシーに頼ることなく、パブリッシャーが連携してクリエイティブ開発機能を獲得すべきである。

競合意識ばかりでお互いに向き合うのではなく、協調できることは積極的に連携を進める時期に来ており、大手パブリッシャーのリーダーシップにも期待する。


参考) http://digiday.jp/publishers/pangaea-symmachia-pubulisher-alliance/





その2)スマホのロケーションデータ活用で交通広告・折込チラシ大変革スタートの年

これはまた、ユーザー情報活用ポリシー再検討の年でもある

2016年はスマホのロケーションデータをターゲティングに活用する元年になるだろう。しかし、これには大きな課題もある。ロケーションデータを使われるユーザーにとって「気持ち悪さ」の払拭はそう簡単ではないからだ。これにはパーミッションの仕方もあるが、そもそも広告配信ルール、運用上の自主規制が必要である。
 例えば、「セグメントする一括りを5000人以下にまでは絞らない」とか、個人特定に近づかないように運用面でのケアをするということである。

 ここを間違えると、すぐには市場形成に至らない可能性もある。いくらシステム的に個人情報と紐づいていないと言っても使われるユーザーからすると「気持ち悪さ」には変わりない。

 その上で、スマホのロケーションデータを活用したターゲティング技法が実現していくと、かなりマーケターにとっては幅広く使えるものになるだろう。

 先ほどのダイレクトマーケターの「潜在層からの新規ユーザー掘り起こし」にも新たなターゲティング手法として注目されるはずである。
 昨今はリタゲ偏重のように、既に興味関心を顕在化したユーザーにばかりをターゲットし、刈り取り促進にばかりコストを集中されているが、これはそもそもマーケターとしての発想が貧弱な証拠である。
 ロケーションデータを使った新たなターゲティング発想は、「新たなターゲットを創出する」発想であり、リタゲ的な縮小均衡のターゲティングではない。
 
 また、このターゲティングは従来の交通広告や折込チラシ、ポスティングサービスのプランニングに劇的な進化をもたらす。「打ち手」はスマホへのデジタル広告ばかりではなく、デジタルサイネージを含む従来の交通広告、折込チラシ、ポスティングほかリアルな施策に応用できる。2020年のオリンピックに向けて特に都内のサイネージなどは大きく変革され、進化するだろう。山手線の新型車両をはじめ、ディスプレイへのシフトで、時間を区切った広告表示など、印刷物からディスプレイへの進化の真骨頂というべき革新が起きるだろう。

 こうしたサイネージへの広告配信プランニングを支えるのが、スマホのロケーションデータになるのは間違いない。またデジタルサイネージはその視聴可能エリアにいるスマホデータをキャッチして最適な広告配信をすることになるだろう。このような実験も今年2016年に行われると思う。









その3)全数系テレビ視聴データと全数系購買データが紐づく年

~新たなテレビ視聴データ分析とその活用が本格化する~

 テレビ視聴データというとビデオリサーチ社をはじめパネル調査によるものと理解されているが、テレビ端末の結線率が上げることでネット回線を使った視聴ログデータ収集は様々な事業者によってトライされると思われる。いわゆる全数系のテレビ視聴データである。これに全数系の購買データが紐づくことが想定される。
 つまりテレビ視聴と、その効果としての購買行動が測定されるということである。従来、メディア接触と購買データをシングルソースで見ることは出来たが、やはり数千、数万のパネル数だと確認したいブランドの購買データが出現しないとか、特定の広告のテレビ視聴者が少なすぎて分析に耐えられないということがあった。しかし、ビッグデータ時代、マーケティングデータは、ECやポイントカードデータという全数系購買データと紐づくべくテレビ視聴データも全数系となるだろう。

~視聴率から視聴質へ~
 視聴率はテレビが点いているという状態を測定しているに過ぎない。また個人視聴を測るピープルメータも自分が観ている時はこのボタンを押し、観ない時はまたボタンを押すという行為を被験者に強いている訳だが、これがどの程度正確なのか、疑問を挟み込むとキリがない。
 視聴率だけでなく、視聴質を測定できたらということはその昔当時の広告主協会からも業界に発信された経緯もある。

 ベムの考える「視聴質」とは、「誰が観ているか」(オーディエンス)と、「どの程度専念して観ているか」(ビューアビリティ=テレビの前への滞在度合い&アテンション=注視度合い)、「誰と観ているか」(コ・ビューイング)、「どんな反応をしているか」(表情分析)などで構成される。
 2016年はこうした「視聴質」データが世に問われる年にもなりそうだ。

 Netflixが上陸してきたが、彼らが視聴データ分析をコンテンツマーケティングにまで応用し、成果を上げているのに対して、日本のテレビ局はあまりに視聴データ分析を怠ってきた。視聴率は単に「商品が何個売れたか」に過ぎない。視聴者構造やオーディエンス分析をして、「誰が何個づつ買ったか」、さらに視聴質分析によって、消費者が商品(番組やCM)にどんな関与をしたかをアテンション=注視度合いや、コ・ビューイング(誰と誰で観ているか=例えば母親と子供で観ている)状況、反応分析(表情)などでさらに深めるべきだろう。
 昨年の週刊ダイヤモンドの特集タイトルは「誰がテレビを殺すのか」だったが、実際は体調が悪いのに血液検査もしないのだから、誰に殺される訳ではなく、自ら病気で弱っているのに処方箋を書いてもらっていないに過ぎない。需要より供給力が落ちているのが今のテレビ業界だ。ゼロサムだから日テレが頑張っているというよりCXの落ち込みで他局が相対的に良く見えるだけ。

 
~全国ネット番組をしっかり分析するローカル局データ~
全国ネット番組に関してはすべての地方局の視聴率がとれている訳ではなく、個人視聴率は機械式では東阪名しか取れていない。そういう意味では全国30局ネットと言ってもローカルのデータはほとんど分からないにも関わらず巨額なコストをかけて全国ネットの番組を買っている。
 前述のようにテレビ視聴ログデータも全数系データで分析できると、すべてのローカルデータも十分分析できる。
こうした分析が進むと、ベムが予測するに、「都市部はデジタルデバイスシフトが進むが、ローカルのテレビ出稿はかえって増える。」と思う。
そうした「都市部のデバイスシフトとテレビ出稿のエリアシフト」の基調がこうしたデータから起きるのも2016年と言えるだろう。


 いずれにしても、従来のマスメディアとデジタルメディアを連携して使うという基調が2016年から始まると言っていいだろう。