デジタルマーケティング専門の罠


 ベムは以前から終始、「e-メール」という言い方が「メール」になったように、デジタルマーケティングからデジタルという形容詞が取れる前提で取り込まなければならない。」と言っている。また、「デジタルマーケティングとは、マス・リアル・ネットの3領域すべてをデジタルデータで統合し、顧客導線を最適化する試み」と定義している。

 そして、今はもっと踏み込んで、敢えて「デジタルマーケティング」とは、「マーケティングの再定義の機会を与える材料」と考える。

 一見、「デジタルマーケティング」と言われればピンとくるマーケティング施策はある。従来のマスメディアによるコミュニケーション施策やリアルプロモーション施策ではない、ネット環境を舞台にデータとテクノロジーを駆使するマーケティング施策ということだ。そして、テクノロジーとデータ分析という旧来のマーケターの苦手とするスキルの壁に当たって、その専門性をまずは獲得しないといけなくなる。そこまではそのとおりなので仕方ない。

 しかし、本当は、従来のマーケティングとは別にデジタルマーケティングを確立することが求められているのではない。

 「マーケティングがデジタル化」するのである。

 そして、大事なのは、このデジタル化という大きなパラダイムシフトに乗じて、「広告販促」のことをマーケティングと呼んでいた企業が、その企業にとっての「マーケティングの再定義」をし、それを全社員で共有する機会と捉えることなのである。

 さて、ベムはいわゆるマーケティングダッシュボード構築を担うことがあるが、それはやっとPOEのデータをリアルタイムで競合ブランドも含めて同一画面上に表示できるようになったからだ。しかしこれらを提案していくと、事業サイドからは、「実際には売上利益(という目的変数)に貢献するのはこうしたマーケティング施策よりも、価格政策や工場からの出荷タイミングなので、それらも説明変数に加えたいと言われる。これらもデジタルデータとしてダッシュボードに取り込める。営業活動のパフォーマンスも説明変数化できるはずだ。

4Pのプロモーションだけを「マーケティング」と定義する時代ではない。

そして、「マーケティングのデジタル化」がこの「マーケティングの再定義」を促すのである。



 企業の経営企画部門の方々に言いたいのは、「デジタルマーケティング部門」をつくればいいのではないということだ。組織(箱)をつくるのはいいが、肝心なのはそこに入れるスキル(人材)をどう定義し、どう育成するか、そして全社のマーケティング活動の本流にどう統合していくかである。この3つめが重要で、そのためには前述の「デジタル化によるマーケティングの再定義」を経営企画室が主導しないといけない。そして経営トップがそれを十分理解・認識して、全社員に向けてその新しい定義とその意味を共有させないといけないのだ。

 よく行われる「デジタルマーケティング組織化」は、マーケティング活動の「幹」に部分に関われない場合が多い。ブランドマネージャーなどマーケティング施策全体を仕切り、事業責任を負う側からすると、デジタルはよく分からないし、面倒くさい。でも全く取り入れないと経営からも「デジタルはやっているのか?」と言われる。そこで、デジタル専門部門にデジタル施策を企画実施してもらう。しかしそれはマーケティング活動の「幹」ではなく「枝葉」のものに過ぎない場合が多い。デジタルを付け足して化粧する程度だ。

 そもそも、従来のマーケティング活動の本流・本丸のところがデジタル化しなければ意味がない。
 
 ということは、従来のマーケティングの本流・本丸(幹の部分)が、どういうスキルを獲得するかをしっかり定義することだ。

 組織は箱から考えるのではなく、そこに入れるスキルセットから考えて、そのためにはどういう仕事(OJT)でそのスキルが育成されるかで組織の役割とポジションを設定しなければならない。

 ベムはこれを極めて具体的に定義している。具体的に定義できるから、具体的にそうしたスキルセットの育成方法が提案できる