ジミヘンとウッドストック


 「ベストヒットUSA」がBS朝日の制作番組として復活している。私ベムも深夜地上波で見ることがある。ついこの前は「タイムマシーンスペシャル」と題して、ボブ・ディラン、ジミヘン、ツェッペリンなどの懐かしい映像が楽しめた。ジミヘンはウッドストックでの演奏だ。

 そういえばちょっと前だが、廉価版で映画「ウッドストック」のDVDが出ていたので、買って観た。まあ長い映画で、昔映画館で観たときよりいっそう長く感じた。この長い尺のなかで、見どころは、ほぼ3箇所しかない。ザ・フーとジャニス・ジョプリンと言わずと知れたジミ・ヘンドリックスのステージだ。

  The Who のステージは観客のなかに英国のロックらしいロックバンドのパフォーマンスが理解できない観客もずいぶんいる印象で、せっかくのライブパフォーマンスに乗りが今イチの感がある。
  しかし30数万人の観客というのは凄まじいものがあって、ヒッピームーブメントがその終焉期に見せた真骨頂とでもいうべき一大イベントだ。ニューヨーク郊外の農場といっても、これだけ広い土地がその辺にいくらでもあるアメリカは実に広い。この広さと、それ故のモータリゼーション、そしてクルマに乗る時間の長さとそこでの音楽のニーズ。ドライブと音楽のドライブ感など、環境が音楽を生むことを納得させられる。

 さて、ジミヘンの演奏だが、私はロックギターのライブパフォーマンスの頂点にこの時のジミヘンの演奏があると思っている。「Star Spangled Bannner」や「Purple Haze」もパワフルでいいのだが、最後の「Instrumental Solo」が秀逸である。
 前曲と比べて実に静かな曲調なのだが、技術的にはもの凄い。私も若いころは、これのコピーにトライしたが、まったくもってこの雰囲気がかけらも出ない。(当たり前か)

 ジミヘンはサウスポーだが、ギターは右効き用を使っている。当然弦は構えたときに低音弦が上になるように張るのだが、トレモノアームなどは、上側に来るし、演奏方法が変わってしまう。通常だと、フェンダーのギターのトレモノアームは右手の小指で、引っ掛けて手のひらのサイド(空手チョップで当てる部分)を使って操るのだが、左手でピッキングして、なおかつトレモノアームが上側にくるので、ジミヘンはピックをつまむ親指にアームを引っ掛けて操る。下向きに押さえつけるようにトレモノを効かすので、普通とぜんぜん違う。

 まず天才の演奏を真似ようというのに無理があるのだが、絶頂期のクラプトンの演奏(ジョン・レノンのライブでのヤーブルースの間奏とか)と、この時のジミヘンはギター小僧が誰しも憧れる。ウッドストック以外にもジミヘンにはモンタレーポップフェスのギターを燃やしちゃうパフォーマンスなどがあるが、演奏そのものは、ウッドストックが最高だと思う。

 映画では、最後のジミヘンの演奏に、観客がかなり帰ってしまって、大量のゴミが風に舞う映像が被る。ヒッピームーブメントの終焉を表すある種象徴的なシーンなのだが、ギター小僧に言わせると、もっとちゃんとジミヘンの演奏している手元が見たい。

 この時代としては退廃的なムードだったんだろうが、今見るとむしろ何か健全さを感じる部分もあって60年代がもっていた活力がロックを生んだことを思い知る映画だ。

  ちなみに私ベムは「ジミヘンが好き」という人には「『AXIS: Bold As Love』と『Electric lady Land』はどっちがいいか」と訊くことにしている。その答えで、ジミヘンが分かっているかどうか判定できる。