日本の広告業の成長戦略


 今や日本の経済成長を支えているのが、輸出や対外投資で海外市場での利益を取り込むことができるグローバル企業群であることが明解になってきている。製造業の生産性は高いが、サービス業の国際競争力がないというのは、言い換えれば海外に行けないドメスティックな産業に成長力がないということだ。
 東京株式市場の上場企業でもROEの高い企業は、ことごとく海外市場を相手にできる企業ばかりだ。上場している広告会社のROEは上場企業平均をはるかに下回る。


 さて、日本の広告費が、ずっとGDPの成長率すら下回っている状況をよく分析し、今後の広告市場に対してしっかりした戦略を立てる必要がある。

 企業が広告に対して期待しているは、まずは「費用対効果の明確化」である。そして、大企業に関していうと、蓄積されたブランド資産を活用しての「ブランドの浸透」を促進し、コアコンシューマを再編して、シュアな需要(売り)の維持伸長を狙う活動である。大々的な新商品導入は、選択と集中で、数が少なくなるだろう。そうなると、大型キャンペーンは上位代理店に寡占化されることになる。ただだからと云って大型キャンペーン自体は減るから、確実な需要維持策を行なう広告販促施策を提供できる広告会社は比較的優位である。ダイレクトマーケティングや購買時点に近い販促施策を売り物にしている広告会社は優位ということになるが、販促施策だけ部品で売っている会社は、従来どおり決して価値が高くならない。

 キーワードは「スルー・ザ・ライン」と「データインテリジェンス」。つまり「売り」ないし「売り」にリンクするデータをクライアントとともに捕捉できる立場にあり、ROI側から広告投資の全体最適をプランニングできることが重要だ。この際、企業側も従来の組織体制はスルー・ザ・ラインになっていない場合が多い。企業のマーケティングコンサルティングのスキルを含め、今広告会社にない機能も取り込む必要がある。

 一方で、「日経ビジネス」に特集が組まれているように、中国進出は製造業ばかりでなく、様々な日本のサービス業が中国市場を開拓している。興味深いのはリクルートの「ホットペッパー」の進出だ。クーポンの販促効果の費用対効果が明確になることと、現地採用スタッフが日本同様の地道な提案営業を展開すること、またこの独自のノウハウで成功している。

 日本の広告業は、そのスキルをいかにもハイエンドなものとして広告主に売ってきた。マス広告の広告スペースを売って、扱い高が大きくなってもマージンが変わらない、つまりクライアント単価が高ければ高いほど付加価値が上がるため、できるだけハイエンド志向をしてきた。一方でリクルートは決して高くないクライアント単価でもこれを多数集めてロングテイルを人力でやるビジネスとビジネス文化を生み育ててきた。結果、経常利益は電通のそれをはるかに凌ぐ。

 海外に進出するとき、現地の有力なメディアの販売権を独占している訳でもない日本の広告会社が、日本流のハイエンド志向をそのまま持ち込んでも、歯が立たないのは当たり前である。日本でしか通用しないハイエンドスキル(人件費の高い)ではなく、どこででも通じるコアコンピタンスがなければ、なかなか通用するものではない。日本のクライアントのパートナーとしていっしょに上陸しても、優位性がないままではいずれ現地の強いエージェンシーに替えられてしまう可能性もある。

 しかし、日本の国内市場が飽和して、成長性がないのなら、どうしても海外に成長力を求めていかなければならないのも事実である。中国、ベトナム、タイ、インドあたりへの進出も、1.国内クライアントの現地展開サービス、2.現地市場開拓、3.オペレーションサービス工場としての進出、4.日本のメディアコンテンツの販売展開のいずれかになる。ITの進化で、広告進行作業を海外でも請け負うことができるようになった。コストコンシャスなサービス提供での競争力獲得というわけだが、これを日本市場でのコスト削減にだけ使ってもあまり意味はない。アジアパシフィックをネットワークして、各地の優位性を別の拠点の競争力に生かす仕組みを構築しなければならない。欧米のメガエージェンシーが中国でもしっかり根付いていけるのは、そもそもこうしたグローバル展開の基本構造を持っているからだ。日本の広告企業は、日本のコンテンツを材料に、アジア展開のネットワークを構築することになるだろう。成功するのは日本流の広告業ではない可能性が高い。

 従来海外展開が1.だけだった時代とは幾分状況は変わっている。グローバル展開といてもそのビジネスモデルも多様である。競争力のある軸(ノウハウ)を一本突き刺すことができれば、展望は見えてくるはずだ。