テレビの日本語


 「あるある」事件をきっかけにテレビは健康情報番組から、雑学(および雑学クイズ)番組に大きくシフトした。特に日本語を再認識する番組も多く、そのこと自体は良い傾向だと思うのだが、その効用という点ではあまり顕在化していない。テレビの日本語(テレビ番組で使われる日本語)は、依然非常にあやしい。

 特に日常的な会話での基本、尊敬語、謙譲語の基本ができていないのが情けない。その典型が自分の妻のことを「奥さん」と呼ぶケースが非常に多いこと。云うまでもなく「奥」とは尊敬語であって、自分の配偶者に対して使う言葉ではない。これを使うだけでその人間の教養のなさが露呈されるのだが、その辺の三流芸人であれば、「さもあらん」で済むが、そうでもなさそうなタレントが使うと、事務所や局は注意しないのか、あるいは事務所や局も知らないのかと思う。

 気持ち悪い日本語は、スポーツを取り上げるときも多い。一番気持ち悪いのは「応援よろしくお願いします。」という今やテレビ向けの挨拶用語化しているフレーズだ。
 この日本語を変だと思わなくなっているのは、皆まねをして、皆でいうようになったからで、そもそもスポーツ選手のボキャブラリーがないことに起因している。
 それはともかく、「自分を応援してください」ということを言うこと自体、従来日本人のメンタリティにはなかった。だいたい勝手にやっていることを応援していただけること自体、たいへん有難いことであって、さらにそれを本人が促すことなどはずうずうしいとしか云えない。
 とは云え、そこは「皆さんの応援が力になりますから、応援していただけると幸いです。」というもの云いはないではない。しかしこのフレーズは、その辺の謙虚さは全く省略されていて、全く知的に感じない実に変な日本語だ。

 おバカと称して、テレビタレントの教養のなさを面白がるのもいいが、タレントが自分の妻君を「奥さん」と云っていたら、ディレクターが「それは日本語としておかしいですから」と云って直すことすらしなくなっているテレビの制作現場の質の低下に、テレビの将来への不安を感じているのは私だけだろうか。