贅沢な時間


 母方の叔母がオランダに嫁いだので、私にはオランダ人と日本人のハーフの従兄弟がふたりいる。叔母夫婦は、旦那さんがアーリーリタイヤメントしてもう十数年、世界中を旅行していて、私の家にも毎年のように訪れる。熱海の別宅は彼らには格好の日本の拠点で、日本中をめぐっている。お金を本当にセーブした貧乏旅行だが、時間だけは贅沢すぎるほどあって、その楽しみ方も徹底している。自転車を必ず持ってきて、1日に50キロも走破したりして、健康で身体が十分動くうちのリタイヤを謳歌しているのだ。
 さて、よく自分に同じことができるのかなと思うことがある。あれは熟成されたヨーロッパ文化の賜物のようなものだ。ヨーロッパにはサイクリングロードが縦横無尽に整備されている。地中海沿岸の本当に綺麗な風景を観ながら、荷物を次のホテルに先に運んでもらって、自転車でゆっくり次の宿を目指す旅は、リタイヤしたとはいえ健康であるが故の楽しみ方で、実はこれほど贅沢なことはない。
 日本人のリタイヤの仕方は、これからの日本に大きな影響を与えるだろう。人口比率もその資産も従来からすると尋常ではない。定年を迎えて、長年の技術を継承するためにアジアに出向く人もいる。リタイヤ後の自己実現も様々だ。
 ただ会社に迷惑をかけないのが鉄則だ。仕事を続けるのはいいが、自分の資本で、自分のオーナーシップで仕事をするべきだ。 明治の実業家である伊庭貞剛の残した名言に、「事業の進歩発展に最も害するものは、青年の過失ではなくして、老人の跋扈である」というものがある。ただでさえ支える若者が減るのだから、若者に迷惑をかけてはいけない。パラサイト爺さんにならないように、会社員(役員)人生の次をしっかり構想したいものだ。叔母夫婦を見ていると、死ぬまでには絶対こうした贅沢な時間を過ごしたいと思う。