「山を盛るより谷を埋めよ」 ~「新世代デジタルマーケティング」にはこんなこと書いてますシリーズ その2~


 
~コミュニケーションブランクをつくるリスク~


「新世代デジタルマーケティング」にはこんなこと書いてますシリーズ その2 です。


キャンペーン型の広告展開について、最近広告主の間で問題視されていることがある。それは、キャンペーンでTVCMなどを使って「盛り上げる」のだが、「キャンペーンが終わるとすぐに効果が減衰して、元に戻ってしまう」ということだ。




 これは感覚値でそう言っている訳ではなく、商品の販売量などで昔よりキャンペーン後にシュリンクする速度が増したという広告主がいる。原因は想像でしかないが、やはり世の中の情報量が多すぎて、消費者のメモリーがもたなくなっていると考えられる。

 そうなると、この現象に対応するためには、2つの対応策が考えられる。

ひとつは、「もっとキャンペーンでのサウンド量を上げる」、そしてもうひとつは「キャンペーンとキャンペーンの間の谷間になんらかの対策を打つ」である。





 競合するブランドがどんなタイミングでどんなキャンペーンを打ってくるかという(相手があること)こともあるので簡単ではないが、基本的に今キャンペーンの山をもっと高くしようとすると実態としてはどうなるかを想定してみよう。

 下記図)はTVCMのフリークエンシーのモデルである。GRPはリーチとフリークエンシーに分解できるが、ここで算出される平均フリークエンシーとは、正規分布する訳ではない。たいがい、0回、1回、2回という過小フリークエンシーの接触者と、フリークエンシー過多の接触者とに2極化する。
 広告会社は「このCMでの有効フリークエンシーは〇回だから、〇〇〇GRP打たないといけません。」というだろう。しかし、有効フリークエンシーを平均フリークエンシーとしてGRP量を決定して出稿しても、有効かつ無駄のない「適正フリークエンシー」で接触している人は案外少ないのだ。
 これはTVCM投下の特徴で、出稿プランを多少変えたくらいでは補正されない。




 この状況で、TVCMの投下量を増やすと、20回見ている人に25回見せることになりがちだということだ。そうであれ、山をさらに高くするように「盛る」よりも、合間または「谷」になっている部分に対策を打った方がいいということになる。

 もうひとつの視点で考えてみよう。

競合ブランドが大型キャンペーンを打ってきたとする。定常的に調査している自社ブランドの認知や購入意向数値が下がってきて閾値を割ってきた。
 当然対抗しようと同じようにTVキャンペーンを実施するために広告代理店を呼び、CMのプランを出させるし、TVスポットの枠を抑えさせる。しかし、どんなに急いでも実施までには2~3ヶ月はかかる。
 その間、消費者のマインドには競合ブランドが優位になっていく。自社ブランドのコミュニケーション資産(ストック)を測るメーターがあるとすると自社ブランドのキャンペーンが始まる2ヶ月先までどんどん減衰していく。
 
 つまり「打ち手」を競合と同じTVCMキャンペーンだけで考えていると、「即」手は打てない。マーケティングコストを考えると、この間(つまり自社ブランドのコミュニケーションブランクの間)になにかしらの手を打って「谷間」を出来るだけ浅くしておく方がよい。即手を打つことで谷をそこしでも埋めておいたほうが、2ヶ月後のTVキャンペーンだけで盛り返すよりもコストがかからない。

 では即打つ手とは何があるのだろうか。

 まず考えられるのは、デジタル広告である。PCネット広告、スマホ広告など、しかもDSPやリスティング広告などの入札による運用型広告である。





 そもそもDSPとはデマンドサイドつまり広告のバイイングサイドのための広告買い付けシステムである。
 このシステムの広告主にとって画期的なことは、バイサイドの好きなタイミングで、好きな量、好きな価格で、好きな配信対象にだけ、広告を配信する(買う)ことが出来る。

 従来、広告というものは売る側の論理で出来ている「広告枠」を買う側が選んで買うモデルしかなかった。ところが検索連動型広告から始まり、DSPによるPCやスマホへのディスプレイ広告の入札買い付けは、まったく買う側の論理で出来ている。
 効果がないなと思えば、すぐやめてしまうこともできる。

 こういう仕組みのアドバンテージをよく理解して活用しないといけない。まだ日本ではDSPというとリターゲティング広告のためのツールのように思われているが、本来は「運用」で最適化を図るために、キャンペーンによる予約型広告のパフォーマンスをリアルタイムで捕捉しながら、まさに「間」を埋めるためにあると言える。

 特にTVのパフォーマンスをつぶさに見て、補完したり、相乗効果を生むために使うのがブランディングを目的とする広告主には最もハマっていると言える。

 

 キャンペーンのピークをどう作るかは、競合ブランドとのマインドシェア争いがある場合に最も留意されるべきだが、(販売シェアや店頭占有率などの状況しだいではあるが、)キャンペーンとキャンペーンの谷間に、従来より施策を打つ方が有効なマーケティングコストの使い方になるはずだ。それだけ今まではほとんど谷間を放置していたと言えるだろう。