次世代広告マン養成ギブス その3 プロダクトコーン理論


 昔からTV広告のデメリットは、リーチはあってもターゲティングが効きにくいことだといわれる。しかし本当のデメリットは、「見込み客」にもそうでない人と同じ15秒のメッセージしか届かないことだと思う。
 興味をもって、購買行動を起こす可能性が高くなっている人に、基本的にアウァネス(気づき)を主目的とするコミュニケーションだけで、購買決定のための次のステップのメッセージが送れないのが最大の問題だ。

  ところで、シストラットコーポレーションの森行生氏が提唱する「プロダクトコーン」という考え方がある。円錐のベースの部分が「規格」(企業側の商品定義)、その上の部分が「ベネフィット」(生活者が得するコト、モノ)、先端の部分が「エッセンス」(商品がもつ性格)というやつで、広告コミュニケーションにおいて、尖がったエッセンスを抽出してフィーチャーしないと刺さらないという思想である。

  実際、たくさんTVCMを作ってきた私も、15秒という広告フォーマットのなかで、しかもCMばかり連続して何本も何本も露出されるなかで、何を伝えるか、何が伝わるかを考える上で基本的な理論としていた。

  ただこの考え方は、旧来のマスメディアによるコミュニケーションをベースにしている。生活者は企業が提示する商品コンセプトを「この商品は自分にとって○○なんだ。」と翻訳した上で商品を買うか買わないかを決めていた。ところが、企業が市場を細分化して新商品を乱発すると面倒な翻訳作業が必要な商品は、相手にしないで無視し始めた。そして興味のない分野についてはエネルギーを使わないで、興味のある分野だけに集中し始めた。そんな環境のなかで進化したマスマーケティング(コミュニケーション戦略)の考え方のひとつが「プロダクトコーン理論」だった。(森行生氏の説)

  そして、関心のないものは無視される環境で、TVのようなマスコミュニケーションでは表現はよほど尖がったエッセンスをクリエイトしないとだめだとする発想はいいのだが、このエッセンスの意味を履き違えた広告がいっぱい出てくる。CMクリエーターは、アウェアネスのためにタレント起用を推奨し、面白おかしく好印象を残すために、オチをつけるコンテをつくって「これがTVCMの流儀だ」とクライアントを説得する。

  その結果、生活者全般に(見込み客もそうでない一般ピープルも押しなべて)「面白いCM」という評価を得ても、商品の本質が伝わらない広告や、見込み客にとって購入決定に必要な情報が伝わらない広告が多くなった。

  「まずは気付かなければ何にも始まらないでしょ。」という考え方は、かえってせっかくの見込み客を台無しにすることにもなっていた。
 
 ところがネットの普及で、従来なかった関心層の顕在化が起きる。TVCMで気付かせた後、顕在化してくる見込み客を、ネットが取り込んで購買決定までもっていくことが可能になった。つまり、「TV広告はネットを組み合わせてはじめてその力を発揮する。」(そういう商品カテゴリーは多い。)

 商品カテゴリーとブランドによって、購買決定のプロセスが違ってくるので、Webの有効性もそれぞれだろう。だが、だからこそクロスコミュニケーションスタディ(各ブランドごとのベンチマーク構築)が企業には必要であって、その意味を説得するのが我々の役割だろうと思う。