SEMはブランドコミュニケーション開発に寄与するか。


リスティング広告を中心にSEM領域は今のところダイレクトマーケターの主要なマーケティング手法である。パフォーマンス管理がしやすいし、何よりダイレクトな効果がある。通常、SEMに関わる作業というと、キーワードの抽出と、ワードに応じたテキスト広告文の開発、ワード別のパフォーマンス管理となって、常に検索結果ほかに表示される広告文からのクリックによって誘導された見込み客を扱っている。

 さて、ネット広告でのパフォーマンス管理は、CPAをもって測る場合、常にアクイジションに結びついた最終誘導にのみ焦点を当てている。これに対して、ATLAS institute.では、アクションに至った直前の広告レスポンスだけでなく、それ以前の広告接触を把握して、その効果も分析する一歩進んだオンライン広告分析を始めている。

 いずれにしても、短期的ないわゆる「刈取り」型のダイレクトマーケティング手法をとる広告主がその大部分であったネット広告市場は、今後はROIを管理していく立場からアプローチして「ブランディングとは何か」を追求することになる。

 そんな大きなトレンドのなかで、今は非常に世知辛いダイレクトマーケティングの世界の代表であるSEM手法が、ブランディングコミュニケーション開発に寄与していくのではないかと考える。
 ここ何年か広告コミュニケーション開発の重要なテーマになっている「消費者インサイトの発見」。これはとりもなおさず、従来広告コミュニケーションが「送り手の思い」からつくられ、TVCMの15秒というフォーマット用にまずは刺さるためにエッジを立たせる作り方であったのに対し、送り手の思いだけではどうにも受け手が反応してくれなくなった状況を反映している。
 それに対して、SEMは消費者行動のどこに琴線が触れるかを突き詰めて考えている。受け手側の興味関心のすべてにカウンターでメッセージを用意しようとする試みである。この考え方は、消費者の多様な求めに対してブランドができるだけ答えを用意しようとコミュニケーションすることで、従来のマスコミュニケーションと正反対のアプローチだ。しかしこうしたアプローチにもブランディングコミュニケーションを成立させる可能性は実は確実にあって、多様なメッセージ開発の仕組みを用意することではじめて成立する新しい考え方になるだろう。この時SEMのスキルをもった人たちに多様なメッセージ開発、コミュニケーション開発のための基盤をつくってもらう時期が早晩くるだろう。

 現在の広告会社には基本テレビ広告的な(送り手発想の)コミュニケーション開発の装置しかない。個々の消費者がそれぞれの琴線にカウンターでマッチングされる広告メッセージ開発ができる新たな装置の開発と、SEMの立場からのブランディングコミュニケーション開発への参画が必要であろう